10周年記念公演第2弾となる『夜まで待てない』は、新たな場所でのギャラリー公演に挑戦します。今回は、旗揚げ10周年の話も合わせてタテヨコ企画の主宰・横田修氏と舘智子氏、ギャラー悠玄のディレクター佐藤省氏にお話を伺いました。

まずは、稽古開始直後の時期に横田修氏にインタビューした模様をお届けします。


-- 今回、公演場所としてギャラリー悠玄を選んだ理由や決め手は何だったのでしょうか?

横田 ふいに、劇場のような大きな空間ではなく、小さくてシンプルな場所でコンパクトな一幕モノをしてみたいという欲求が出てくるんです。それで、劇団員みんなで公演場所を探していたらこんな場所があるよと。そこは地上2階、地下1階の3フロア構造になっていて、それぞれのフロアが独立したエリアとして展示や催しをやっている。そこに魅力を感じましたね。
 というのは、僕は「違った時間軸を持つ登場人物達が、出会うことで新しい時間軸を生きていく」という構造が演劇の大きな魅力の一つだと思っています。あのギャラリーでは、さらに場所自体がフロア毎に違う時間軸を内包してるわけで、そのシチュエーションが面白いと思ったんです。即決ですよ。

-- ギャラリー公演は2002年に世田谷区経堂にあるギャラリ カタカタから始まり、「夜まで待てない」で4回目となります。ギャラリー公演を始めた“きっかけ”は何だったのでしょうか?

横田 当時6人だったかな、、、劇団員だけで、小さな実験めいたことをしようと話し合ったのがきっかけでした。それまでは客演の方にも大勢参加してもらっていたのですが、じゃあ劇団員だけでどこまでできるだろうかと。作品は『そのときどきによって』。劇団の公演としては5回目の公演になります。ただ、当時は番外編としてとらえていて第◯回公演とは銘打たずにタテヨコ企画29.8333…としていました。この数字は当時の劇団員の平均年齢です。
 それで、公演してみたら思わず評判が良くて。それで続けることになったんです。公演のたびにその場所に似合う物語を描いてきて、それで、3回目となった第16回公演「カタカタ祭り」の時には新作の『嘘つきと呼ばないで』と過去2作品の3本立て公演が実現しました。

-- ギャラリー公演の魅力は何なのでしょうか?

横田 創り手に要求されるレベルが高くなると思うんです。建物や家具などが本物なので、生半可なフィクションでは跳ね返されてしまう。さらに、演技中の俳優が外の通行人を見たりするなど突発的な外的要素が絡んでくるのも面白くて、、、なんていうか、力試しのような側面もありますね。

-- ギャラリー悠玄はタテヨコ企画にとって新しい場所になりますが、そのあたりはどのように感じていますか?

横田 カタカタで3つの作品を創ってきて、「もうやり残すことはない」ぐらいな感じになっていたんですね。もちろんこれは一時的なことで、カタカタではまたそのうちやるだろうと思います。だからこそ、今回はあえて違う場所でやってみたかったんです。3作品目の『嘘つきと呼ばないで』で初めてギャラリーに客演の方をお呼びしたのですが、問題なく仕上がりました。その経験から、別に劇団員だけで楽しまなくてもいいじゃないかと。今回も客演の方にも出演してもらっています。

-- 客演の方のキャスティングの理由について聞かせていただけますでしょうか?

横田 まず、10周年記念公演ということで今までに出演してくれた方と一緒にやりたかったというのがあります。それと、ギャラリー公演はタテヨコ企画の特色にもなっているので、そこで一緒に遊べそうな方をキャスティングしました。

-- ギャラリー公演をする時に狙いのようなものはあるのでしょうか?

横田 場所から発想するというのが劇場でやる時との大きな違いですね。もちろん、劇場で公演するときも場所の設定は考えますが、それは「この作品をどのような場所の設定でやろうか」という発想の仕方です。それに対してギャラリー公演のときはそのギャラリーが「ギャラリーとして機能している」ということが前提です。ただし、もちろんそのまま描くわけではなくて、その場所が持っている力を利用して「確かにそのギャラリーだけれども、ちょっと違う街の場所にも見える」みたいにすることができればなおいい。 “現実の”ギャラリー悠玄と“違う世界の”ギャラリー悠玄みたいなものですね。「こんな悠玄もあってもいいんじゃない」みたいな(笑)。違う世界というのは僕の頭の中の世界、言ってみれば妄想の世界なんですけどね。それがうまく作用すれば、その街に住んでいる人やそこで普段仕事をしている人が公演を観ると、自分達が普段生活している場所の再発見に繋がってすごく面白いんじゃないかと思います。

-- それは、ギャラリー公演のみの考えなのでしょうか?

横田 実は、このことは劇場で公演する時も同じで、劇場でやる時もその劇場を普段と同じようには見せたくないわけです。そこを違う場所に変えるのが演劇の力だと思う。突き詰めていくと、劇場もギャラリーも普通の街も一緒なんだと思います。あるルールに従った私たちの生活の中にある場所だという意味では同じ場所なわけです。そうすると、お芝居を劇場じゃないところでやるというのも普通になってくる。だから僕としては普通のことをしているだけなんですね。こうした、その場所に特化した方法というのは日本中どこでもできるし、もちろん世界でも可能です。

-- 「夜まで待てない」どのような作品になりそうですか?

横田 軸が2つあります。1つは、物語を書く僕が興味があること。僕に近い年齢で世の中で生きている人達のことを書きたい。もう1つは、東京の銀座にあるギャラリーという場所から僕がイメージする世界。その2つの接点にあるのが今回のお話ですね。

-- タテヨコ企画は旗揚げから10年が経ったわけですが、何かしら思うところはあるのでしょうか?

横田 基本的には、それまでのことをふまえて新しいモノを創っていくだけで、9年も10年も11年も同じだと思っています。ただ、あえて10年周年ということで言うならば、10年ひと昔というように、10年の間に、演劇の世界も変わってきたし、何がリアルなのかに関しての考え方も変わってきた。世の中の状況もこの10年間で相当変わってきた。そのなかで自分が続けてきたことというのが、現実の世界に近くなったり、遠くなったりしていると思うんです。もちろん、演劇というのはフィクションなんですが、それがすごくリアルに感じられる時もあれば、リアルではなかったりすることもある。でも、10年くらいのスパンでは微動だにしないものを創りたいとは常に思っています。そういう意味で今年は10年間やってきたことの集大成の年だとは思います。

-- この先10年をどのように捉えていますか?

横田 この先10年というのは、まさにこのやってきた10年というのを踏まえて、検証して、さらに普遍的な物を目指していくことなんだとは思います。僕自身も年齢を重ねていって、いろいろ変わっていきますからね。10年前には子供もいなかったし、10年の間に知り合いで死んだ人もいっぱいる。生まれた命もあれば、亡くなった命もあるわけですよ。だから、やることのベースは変わらないかもしれないけれども、周りが動いていく。そういう中で、じゃあ自分にできることはなんだろうというのはいつも考えています。それを地道に繰り返していくだけでしょうね。

-- タテヨコ企画を始めた時は10年続くと考えていましたか?

横田 あんまり考えていませんでしたね。

-- 積み重ねていったら10年経ったということでしょうか?

横田 そうですね。もちろん続けたいとは思いますけど、続ける事だけに価値があるわけではなくて、まずはその時その時が面白くないと意味が無いわけです。なので、常にその時に僕が新鮮に思うことをしていきたいとは思っています。

-- 2つの軸からどんな現実とは違った世界が立ち上がってくるのか、非常に楽しみになってきました。本日は稽古中でお忙しいなか、ありがとうございました。

《以上》
 横田修氏には、稽古が進展してきた時期に再び作品についてインタビューを実施する予定です。ご期待ください。

 

 


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